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普通の価値はそこまで低下しているのか?小説「名もなき毒」 2006-09-07-Thu

名もなき毒/宮部みゆき
コピー~連続無差別殺人事件。あらゆる場所に「毒」は潜む。
34401214.jpg

☆ストーリー
どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。それが生きることだ。
財閥企業で社内報を編集する杉村三郎は、
トラブルを起こした女性アシスタントの身上調査のため、
私立探偵・北見のもとを訪れる。そこで出会ったのは、
連続無差別毒殺事件で祖父を亡くしたという女子高生だった(本の帯より)


いろんなレヴューを見ていると結構絶賛みたいですが、
私は微妙でした。なんだか後味悪いんですよ、最近の彼女の作品は。

たとえば「模倣犯」。
コピー「まやかしの希望は、絶望より邪悪である」
20060907044748.jpg

☆ストーリー
公園のゴミ箱から発見された女性の右腕、
それは史上最悪の犯罪者によって仕組まれた連続女性殺人事件のプロローグだった。
比類なき知能犯に挑む、第一発見者の少年と、孫娘を殺された老人。
そして被害者宅やテレビの生放送に向け、不適な挑発を続ける犯人――。
が、やがて事態は急転直下、交通事故死した男の自宅から、
「殺人の記録」が発見される、事件は解決するかに見えたが、そこに、
一連の凶行の真相を大胆に予想する人物が現れる。
死んだ男の正体は? 少年と老人が辿り着いた意外な結末とは?
宮部みゆきが“犯罪の世紀”に放つ、渾身の最長編現代ミステリー。


新刊で出た当時、会社で流行して私自身もかなり夢中で読んだのですが
読み終わった後、一体何故こんな誰にでも真似できそうな残酷な犯罪小説を
「模倣犯」という題名で世に出したのか不思議でなりませんでした。
これじゃ小説「模倣犯」の真似をする模倣犯が出てきてしまうだけなんじゃないかと。
作者はこの本を「模倣した」事件が起こらぬよう警鐘を鳴らしたかったのかもしれませんが
警鐘を鳴らすならもっとしっかり完結して欲しかった。
「俺は模倣犯なんかじゃない!」それがこの異常に長い残酷な物語の結末なのか?
そりゃないさ!書き逃げだ!ここまで付き合ったんだから答えを教えてくれ!
いや、答えなんかいらない。せめて希望が欲しかった。正義でもいい。
結局、幹の太さが損なわれているとまでは思わないけど、
枝葉が大きすぎて幹が見えなくなってしまい最後に失速、そんな作品でした。

因みに会社の先輩は「こんな話を考える宮部みゆきが嫌いだ」と言っていました。
(宮部ファンの方ごめんなさい。私は模倣犯が出るまで彼女の大ファンだったのです)

で、「名もなき~」に戻るわけなんですが、これは「誰か」という作品の続編。
またまたそれが分からない。「誰か」がシリーズ化されるような作品なのか?

「誰か」宮部みゆき著
20060907044929.jpg

☆ストーリー
今多コンツェルンの広報室に勤める杉村三郎は、
義父でありコンツェルンの会長でもある今多義親からある依頼を受けた。
それは、会長の専属運転手だった梶田信夫の娘たちが、
父についての本を書きたいらしいから、相談にのってほしいというものだった。
梶田は、石川町のマンション前で自転車に撥ねられ、頭を強く打って亡くなった。
犯人はまだ捕まっていない。依頼を受けて、梶田の過去を辿りはじめた杉村が知った事実とは…。

まずあの「財閥企業で社内報を編集する杉村三郎」がシリーズものの主人公でいいのか?
直木賞を受賞した東野圭吾「容疑者X~」のガリレオさんもキャラが薄いなーと思ってましたが
杉村さんはそれ以下っすよ。まるで踊るシリーズでなぜか主役に踊り出てしまった
ユースケサンタマリアのような薄味な男。物語をひっぱるのには弱すぎるんじゃないでしょうか。

薄味なユースケさん。うどんも薄味??
yusuke.jpg

で、話は今度こそ「名もなき~」に戻るわけなんですが、
まず、原田いずみという解雇された女子アルバイトのキャラが化け物じみている。
それはそれは今までの宮部ワールドの悪役の中に入れてもピースが霞んでしまうほどの化け物。

本文より
原田いずみが採用されて、二ヶ月ほどたってから、彼女の態度が少しずつ変わり始めた。
ミスを指摘すると、以前はすぐ謝って直していたのに言い返すようになった。
手の込んだ言い訳を並べるようもななった。
やがて、それを通り越して攻撃的になってきた。
「最初はこうやれって言ったじゃないですか。だからそのとおりにしたのに」
「私のミスじゃないですよ」「そんなの、聞いてません」
「どうしてわたしばっかりのせいにするんですか?」
「私がアルバイトだからですか?そんなの不公平です」


そのうち原田いずみは無断欠勤を繰り返すようになり、
会社側がやむおえず電話でアルバイト契約の解除を告げると
1時間もしないうちに会社に乗り込んできて、女性編集長に灰皿を投げつける。
更には「どうして誰も私に謝りに来ないんだ。悪いのはそっちじゃないか!」
「電話一本でいきなりクビなんて契約違反だ!」などと興奮状態でまくし立て
更には会社の会長宛に抗議文を送り
「私は社員たちから様々な虐めを受けていた。性的いやがらせも受けた!訴えてやる!」
とかいうとんでもない嘘八百を並べまくるのである!!こえ~!

このとんでもない化け物女の物語と連続毒物混入殺人事件が「毒」というポイントで
つながっているのはいうまでもありません。
そして何よりも恐ろしいのは作者が投げかける「普通」の定義。
「普通はそんな事しないよね」とかで使う「普通」の価値が低下しているという事。

本文より

探偵「普通というのはどういう人間です?」
主役「私やあなたが普通の人間じゃないですか」
探偵「違います」
主役「じゃあ優秀な人間だとでも?」
探偵「立派な人間と言いましょうよ。こんなにも複雑で面倒な世の中を
    他人様に迷惑かけることもなく、時には人に親切にしたり、
    一緒に暮らしている人を喜ばせたり、
    小さくても世の中の役に立つことをしたりして、まっとうに生き抜いているんですからね、
    立派ですよ。そう思いませんか?」
主役「私に言わせればそれこそが”普通”です」
探偵「今は違うんです。それだけのことが出来るなら、立派なんですよ。
  ”普通”というのは、今のこの世の中では”生きにくく、他を生かしにくい”と同義語なんです。
  ”何もない”という意味でもある。つまらなくて退屈で、空虚だということです」

多分作者は今回、この言葉がいいたくて、この物語を書いたのではないかと思いました。
でも、「普通」の価値って本当にそこまで低下しているんでしょうか。

本文より
「子供たちに”正義なんてものはこの世にない”と思わせてはいけない。
それが大人の役目だ」

本当に声を大にして訴えて欲しいのはこの部分なのになぁって思いました。
最近の世の中はおかしい、間違ってる、そんな事は分かってます。
だからこそ間違えを正そう、無理かもしれないけど、正そうという気持ちは諦めずに持ち続けよう。
そんなメッセージが聞こえてくるような小説が読みたい。偽善でもなんでもいい。
こんな世の中を認めてしまうなんて、それじゃ希望も何もないじゃないですか。

という事でイヤ~な気分で本を閉じ、心機一転で東野さんの新作「赤い指」を読み始めたら
これがまたとんでもないお話。
20060907045345.jpg

引きこもりがちな中学生男子が幼女に悪戯しようと自宅へ連れ込み、
騒がれたのでクビを閉めて殺してしまう(もうこういうの聞き飽きました)
更にそれを知った親は息子を守るために幼女の死体を近くの公園の男子便所に捨て・・・

・・・もう「普通」の価値は落ちる一方です。
自分の子供が人を殺したのに、それを庇う。信じられません。
「分かる気がする」なんてとてもじゃないけど思えない。この先の展開を考えると気が重いですが
名物男、加賀刑事がなんとかしてくれると信じています。

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コメント


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 goleador14 | URL | 2006-09-06-Wed 12:53 [EDIT]

こんにちは。
宮部みゆきは、ボクもあまり好きではないですね。「龍は眠る」は結構好きでしたが。東野圭吾も最近の作品はあまり・・・「容疑者Xの献身」もそれほどとは思いませんでした。
最近、本を読むときに重視しているのは、読後の爽快感とか、そういうものなんですよね。お気に入りは、伊坂幸太郎です。

☆goleador14 さま ペッタンコ | URL | 2006-09-06-Wed 19:35 [EDIT]

そうそう「龍は眠る」「火車」あたりは良かったんですけどね。最近は物語より文章のテクニックに走りがちなのも気になります。とにかく後味が悪い。そして東野さんの「容疑者~」私もイマイチでした。なんというか…軽いですね、彼は最近。サラッと読めるのはいいんですがサラっと読めすぎな気もします。カタルシスが薄いというか…(なんだか凄く偉そうですね、私)。
読後の爽快感が一番凄かったのは垣根 涼介の「ワイルドソウル」です→記事http://hanahana26.blog52.fc2.com/blog-entry-12.htmlあとはやはり伊坂さんの「ラッシュライフ」かな。こんな世の中だからこそ「人生捨てたもんじゃない」系が読みたいっす(じゃあこんな暗い本の話題なんて記事にするなよって感じですが)。

 ウルフ | URL | 2006-09-06-Wed 20:23 [EDIT]

>ペッタンコさま

 ウルフです。
 
 最近読みたいと思っていた書籍のご紹介だったので、
 食い入るように拝見したのですが、、、。
 
 う~ん。宮部さんのはヘビーそうですね。
 しかも、「後味が悪い」ですか、、、。

 炭酸のぬけた生ぬるいビールなんて
 その読後感に比べれば、可愛いものでしょうね。

 普通の低下は、モラルの低下。
 モラルが揺らげば、普通が揺らぐ。
 
 そんな時代でも(いや、だからこそ)、
 私は自分が「普通」だと思うことを見失わないように
 生きていきたいと願います。

 とまあ、湿っぽい結びになってしまいましたが、
 でも読んじゃいそうです。
 それでは~。
 
  

 goleador14 | URL | 2006-09-06-Wed 21:06 [EDIT]

連続でスミマセン。
「ワイルドソウル」と「ラッシュライフ」、両方ともいいですよね。
垣根 涼介の作品って「ワイルドソウル」しか読んだことがないのですが(弟に勧められたので)、他に何かいい作品があったら教えてください。

☆ウルフさま ペッタンコ | URL | 2006-09-06-Wed 21:41 [EDIT]

いやいや、アマゾンのレヴューを読んでいると結構「最後はスカッとした」とか言ってる人もいるので、人それぞれなんじゃないですかね。どこらへんでスカッとしたのか聞いてみたい気もしますが。ウルフさんも是非、化け物女(←この言葉はCMでひっかかるそうです)の原田いずみに振り回され撒くって下さい。ある意味そこが一番読み応えあります。原田パワーは本当に恐ろしいです。ホラーです。

☆goleador14 さま ペッタンコ | URL | 2006-09-06-Wed 22:20 [EDIT]

垣根さんの小説は、来年「ヒートアイランド」が映画化されるという記事を読みましたが未読です。なんでも「ワイルドソウル」の前に書かれた作品で、垣根さんの原点なんて言われているそうです。ただ、友人から「垣根さんはワイルドソウルだけで十分だよ」と言われ、根拠も無く信じています。同じハードボイルド系でかなり面白いのは藤原伊織の「テロリストのパラソル」ですかね。読後の爽快感だと岡嶋二人の「99%の誘拐」!これはメチャメチャ面白い&読後が気持ちいい!まだ読んでいないなら絶対にお薦めです!http://hanahana26.blog52.fc2.com/blog-entry-16.html#comment(99%の記事です)

 加納ソルト | URL | 2006-09-08-Fri 02:23 [EDIT]

後味の悪い作品はいやですね。食べ物もしかり。
どうでもいいですが「赤い指」の東野さん、彼自身の例の作品と同じパターン?

☆加納ソルトさま ペッタンコ | URL | 2006-09-08-Fri 03:13 [EDIT]

それは「さまよう刃」の事でしょうか??まだ読んでないんですよ。よく遊びに行くブログであらすじを読んで、絶対に暗い気持ちになる事間違いなし!って感じだったので。赤い指は私の好きな加賀刑事が出てるという情報だけで読み始めてしまったので、今更後悔しています。まだ途中ですが、多分今週末で読んでしまうんだと思います。どんなに辛くてもいいので、後味だけはスッキリして欲しいんですが…でもこの題材でスッキリとは行かないんだろうなぁ。

 加納ソルト | URL | 2006-09-08-Fri 13:44 [EDIT]

「さまよう刃」の内容は知らないので、それではありません。ネタバレになるので、作品名は伏せておきます。いずれ出会った時に「これかマズイって言うてたのは~」とでも呟いて頂きたいと思います。

☆加納ソルトさま ペッタンコ | URL | 2006-09-08-Fri 15:13 [EDIT]

ひえ~なんだろう。東野さんは作品多すぎてまだ全部読めておりません。加賀刑事が出てくるなら辛い話でも乗り切れるのですが。ちんたら読みながら出会いを待つ事にします。


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